国学院大学法学部横山実ゼミ


上海の陰の部分

(この随筆は、ゼミ誌15号から転載しました。)

 2003年3月19日に、私たちは姉妹校の復旦大学を訪れた。そのとき、法学院(法学部)で国際法(日本法)を研究している何力先生から、話を伺うことができた。先生は、私たちが上海の繁華街や観光地で見たのは、光の部分であり、その後ろに陰の部分があると述べられた。以下、その陰の部分について、先生のお話をふまえて、紹介しておきたい。

 第1に、急速な近代化を目指す上海市当局は、強権を発動して、都市開発を進めている。それゆえに、私たちは、上海の中心部で、多くの建設現場を目撃したのである。しかし、それは、都市の貧しい人々の犠牲の上で行われているのである。中国は、共産党政権が誕生して、既存のビルや建物の部屋を、都市住民の居住の場所として提供した。それらのビルや建物は、老朽化しており、都市の美観を損なうものになっていた。そこで、上海市は、都市計画に基づき、老朽化した家に住んでいる貧しい人々を追い出し、その家を取り壊して、街づくりをしているのである。

前日、私たちは、観光ツアーで豫園を訪れた。その庭園の周りには、立派な店が建ち並び、たくさんの観光客が買い物を楽しんでいた。しかし、それらの店は、数年前に、都市計画によって、貧民を追い出した跡地に、作られたものだという。上海の観光政策のために、都市貧民が犠牲にされたのである。

 ところで、建設現場や工場で働く労働者の多くは、田舎からの出稼ぎ者である。中国の内陸部には、多くの貧しい農民がいて、現金収入を求めて、上海などの大都市に流入している。出稼ぎ者の中には、上海に居着いているものもいる。その中には、上海に家族を呼び寄せたり、また、上海で結婚したりして、子どもを持つ場合もある。

 上海市は、人口の膨張を防ぐために、古くから住んでいる人にしか、市民としての権利を認めていない。たとえば、上海市の公立学校で、義務教育を受けることができるのは、市民の子どもだけである。中国の一人っ子政策を忠実に守り、その一人っ子を大切に育てているのは、このような市民だけなのである。

他方、出稼ぎで上海に来ている下層労働者の子どもは、学校で義務教育を受けることができないでいる。そこで、ボランティア団体が、私塾を開き、そのような子どもたちのために、基礎的な教育を授けているという。

 上海は、ハイテク産業が発展している。そこで、中国各地から、高い能力をもった人々が、職を求めて入ってきている。上海市は、彼らにも市民権を認めていない。しかし、このような人々の子どもは、私立学校に通い、良質の教育を受けている。また、成長すると、海外で高等教育を受けることになる。貧富の差が、子どもの教育において、顕著に見られるのである。

 何力先生は、中国が世界の工場といわれるようになったのは、良質な低賃金労働者が存在するからであると述べていた。「中国内部には貧しい人が無尽蔵にいるので、上海で低賃金労働が枯渇することはない。そこで、上海の発展は、長期にわたって続くであろう」と述べていた。巨大な人口を抱える中国において、すべての人が、貧しさから解放され、上海でみられるような、光輝くような生活を享受できるのは、いつの日になるのであろうか。

Students in Shang hai

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